けんちゃんのゼロから始める新・鮨バー

寿司屋の修行なしに開業した26歳の成長日記

小説家デビュー 1作目 シートベルト

f:id:kenchan1023:20161116230022j:image

ある土曜の夜。

 

まだ少し肌寒い季節。

 

僕はその時、中学生になるちょっと前だった。

 

厳しい母親と穏やかな父親に育てられた僕は、これから小学校に通い始める、まだ幼い弟に対して、少し大人になったつもりで色んなことを教えてあげる優しい兄。

 

母親は、きっちりした性格もあって、町内会の理事をしていた。決して誰にも愚痴を言うことなく、そつなく仕事をこなしていく。平日も朝からコンビニで店長を務めていた。

 

父親は会社員。部下からも慕われ、よく夜は飲みに行っていたようだ。母親が迎えに行き、顔を少し赤らめ、ママごめんね〜と言いながら一緒に帰ってくる。

母親もその時だけは、そんなこと言わんで良いよ、と顔を赤らめる。


母が迎えに行ってから、2人が帰るまでの間、弟と2人になる時は、少し得意な気になり、小学校のことなんかを自慢げに話していた。


その日もなんの変わりもないある週末。


家族4人が揃って、弟が大好きなとんかつ屋で食事をしてから、歩いて帰宅した。


唯一違ったのは、土曜なのに誰もお酒を飲まなかったこと。母親は年に数回ある町内会の打ち合わせがあり、父親は明日のバーベキューのために張り切って1人、夜釣りをする予定だったから。

 

7時ごろだったと思う。
まず、母親が車に乗って、集会所に向かって行った。

 

そして、残された男3人はコタツに入った。

母親が出かけるときの恒例行事だ。

父親がこっそりお菓子や果物を隠しておいてくれて、それを母親には一切バレないように食べるのだ。

 

近くのコンビニで買った、少し高いアイスクリーム。冬にコタツの中で食べるアイスクリームは格別。

 

いつもだったら半分食べたら終わりで次の日に回すのだが、その日は男3人。

 

1人ワンカップを食べた。


あまりの美味しさに、もうワンカップ。

 

美味しすぎて笑いが止まらない。みんなニコッとした。ニヤニヤに近かったかもしれない。

6カップ入った箱はあっという間に空になった。楽しい時間はすごく早い。

 


8時になったため、父親は支度をし、夜釣りへ出かけて行った。

 

また、僕と弟の時間。

今度はゲームでもやろうかとセッティングをしていると。

 


ガチャ!

 


母親が帰ってきたため、弟との時間はあえなく終わった。


明日はバーベキューで宿題できないだろうからやっときなさい。


いつも計画を立てて行動するように言われていたが、ここまでくるとちょっとうんざり。

そんなことを思いながら、二階の部屋へ向かった。

 

そういえば、さっきお父さんとすれ違ったよ。
夜釣りたくさん釣れると良いね。

母親が弟に話しかける声が下から聞こえてきた。


バタンっ。


僕は自分の部屋に入り、中学に入る前に既に出された春休みの宿題を始めた。


Is this a duck or a rabbit?
これはアヒルですか?それともウサギですか?

こんな、誰も使わないような文章を10回も書かせる中学の宿題ってなんだよ。

 

もっと、使える言葉。

例えば、さっき食べたアイスクリームは、あまりの美味しさに天国へのぼるような気持ちになりました。とか。

 

アイスクリーム。Ice cream.
天国。heaven.
美味しい。delicious.
か.........

まあ、こんな文章、辞書があっても書けないんだけど。

 

天国へのぼるって「昇天」か。なんて、ちょっと、どこかの変態サイトで見た言葉を思い出して、辞書を開こうとしたまさにその時。

 

ガチャッ!!!

 

突然、ドアが開いた。

 

ドキッとした。

下品な言葉を調べるのに夢中になって、階段を上ってくる音も聞こえなかった。

 

後ろめたい気持ちで辞書をとっさに隠す間も与えられることなく、いつもより強張った顔で母親が、


行くわよ。


それだけ言って僕と弟を車に乗せて、堤防の方に向かって走った。

 

 

少し不気味な感じがして、僕も弟も何も話さなかった。いつもの母親の厳しさとは違う空気。何か緊張の糸が必要以上に張っている感じ。

 

 


真っ暗な道をただただ真っ直ぐ。真っ直ぐ、真っ直ぐ。

 

真っ直ぐ。

 

 


暗闇に少し目が慣れた頃。


今度は不気味な赤色のライトが見えた。


堤防を下りて、浜辺の方へ。


ザーッ。ザーッ。波の音しか聞こえない。


不気味な赤色の正体は救急車と警察車だった。


中で待っていて。


母親だけが出て行き、何やら警察と話をしている。
警察の横を見ると、見覚えのある車が。
なんの変わりもない父親の白い軽自動車。

 

 

なんでこんなとこに、パパの車があるの?

弟も疑問に思ったようだ。

 

母親は下を向いて、何やらうなずいたり、話をしたり。そして、警察と一緒に救急車へ入って行った。

 


また、僕と弟の2人の空間。
いつもなら得意げな僕も、何も言葉が出てこない。


ねえねえ、なんでパパの車があるの?


意図的にではないと思うが、沈黙を破るように弟が聞いてくる。


なんでだろうね。


精一杯、発した言葉は自分自身に話しかけているようだった。


少しして母親が呼びに来た。


僕は弟の手を引いて車を出た。
そして、母親に手を取られて救急車へ入った。

 

 

そこには。

 

 


穏やかな表情で眠る父親がいた。




 

 

 

 


長い沈黙を無理やり破る。


お父さん。ねえ、お父さん。


反応はない。


パパ?どうしたの、パパ?


僕はすぐに察した。
もうお父さんは動かない。

 

弟の方を見た。
弟はまだ分かっていなかった。

 

 


パパ、パパ、どうしてここで寝てるの?ねえ、起きて。


明日はバーベキューでしょ?準備しなきゃ!

 

 

僕はそんな弟の声を歯をくいしばり、涙をこらえて聞いていた。


今度は弟がこっちを見た。


目が合った。


僕の表情を見て、何かを感じ取ったのだろう。

 

弟の目から突然、涙がこぼれた。

 

 

 

 

 

 

次は誰も破ることのできない、永遠にも感じられるほど長い沈黙。

 

 

 

 

 

そして、弟が体全体でそれを破るように救急車を飛び出した。

 


パパアアァァァァーーーーー!!!!!



なんの変わりもない土曜日。

堤防の下の浜辺。

海の暗闇の奥の奥に向けて弟が叫んだ。

 

パパアアァァァァーーーーー!!!!!

 

 

いつものように変わりのなく、毅然とした態度でいた母親が、遂に膝から崩れ落ちた。


母親が声を出して泣いているところを初めて見た。

 

 

僕は放心状態のまま救急車を降りた。

父親の車のドアが開いている。


いつもと変わらない、父親の白の軽自動車。
堤防から一直線に落ちたのだろう。

変わっているのは、前に傷が付いていたのと、中が散乱していたことぐらいなもの。


後から聞いたのだが、堤防から落ちて、ハンドルに胸を強打したらしい。
シートベルトを付けていなかったことも分かった。


あまりにも軽自動車が無傷だったため、僕は少し冷静になってしまっていた。

 


なんで。

 

 


なんで。

 

不思議な感覚だった。

 

さっきまで、一緒にいたのに。

さっきまで元気だったのに。

 

 


さっきまで。。

 

 

 

 

助手席は、コタツに入って3人で食べたアイスクリームの空のカップが散らばり、黒いシートが少し白く汚れていた。


一瞬、ごめんね〜と顔を赤らめる父親の声が聞こえた気がした。

 

これはアヒルですか?それともウサギですか?こんな文章を使うことはやっぱりない。


さっき食べたアイスクリームはあまりの美味しさに天国へのぼるような気持ちになりました。

 

1時間前に勉強した文章が頭から離れなかった。


ーーーーーーーーー

 

 

これは、今日僕が免許の書き換えのための違反者講習で聞いた話に90%の脚色を加えたフィクションです。

 

実話が元になってるということもほとんどないぐらいです。

 

ただ、何かを伝える時って、例えばシートベルトしましょう!って直接言うだけではダメで、聞いた人の中で納得させることや、もしくは全然違うアプローチで結果的にシートベルトつけさせるようにしなきゃダメだと思います。

 

例えばシートベルトするとおしゃれできるみたいなイメージがつくような。


小説を通じて何かを伝えるのは、追体験させて聞く人の記憶に定着させるという意味でとても良いかなあと思います。

 

シートベルトは大事だよって話なんですが、その向こうにあるのは命の尊さだったりします。

 

こうやって説明を書くのは卑怯かもしれないですが、次回からは話だけを書こうと思いますので。

 


いつか小説を書きたいなあとかも思っていたので、こういう機会を使って練習をしたいと思います(^○^)

 

これからも、何かガツンとくるものがあれば書いてみようと思います。

 

 


それでは(^○^)